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郡司ペギオ幸夫氏 《因果反転を可能とする地平》講義 概要

例えば「食べる」という言葉は一般に人が食物を口から取り込むことを指します。同様に、犬やネコ、鳥などが食物を口から取り込むことも「食べる」ですが、何かの中に何かを入れる=「カバンに本を入れる」ことも「食べる」と言えるのではないか。つまり「カバンが本を食べる」。生き物が食物を摂取することだけが「食べる」であったのに、ここで言葉は拡張=進化します。「重要なことはバラバラな事物があり、たまたまある土台の中で“そのように使われる”、つまり関係付けられるだけである。科学や言語は、連続的なものが先にあり、そこから逸脱した不連続なものをいかに再回収するかと考えがちだが、そもそも世界は不連続で、そこには外部に通じた無際限性がある。その不連続さの中に関係を見出すこともあるだけなのだ」。

このように講義は始まります。規範的なつながりと関係を前提とした場から、いちどその前提を解除し、反対のベクトルへものごとの関係を降ろしてみる。円錐台の上部に不連続な事物がばらばらに浮遊していながら、その「外部」を直接示す不可能性を踏まえた上で、いかにそのような「外部」を逆算的に繰り込むモデルを構築するか。郡司氏による、ベイズ推定と逆ベイズ推定との組み合わせは、この講義の中で過酷な製品テストのように繰り返し試されていきます。我々は外部を直接扱えない。例えば「他者」のような、一切のコミュニケーションの可能性を絶たれた存在と「共存」はできない。しかし、それを存在しないものとして扱うのではなく=あらかじめ連続した規範性の内部だけで事物を語るのではなく、ある技法をもって経由することは、断固として可能である。この講義はまったく実践的であり、その実践性は政治社会的な水準にも届くでしょう。

郡司ペギオ幸夫氏の講義は丁寧に階段を踏みながら、いつしか驚くほどの高さに聞く人をつれて行き、かつそこから確実に「実装」の地平にまで着地させてゆきます。ライヴの熱量は「これは絶対にわかるはずだ」という確信に裏付けられ、聴講者の思考の「規範的」構造はまさにバラバラに解体された上でまったく新しい形に再編成されます。筋肉を再訓練するビリーズブートキャンプ?のように、脳が直接エクササイズされる感覚は、おそらく現場に居合わせた人々が何らかの形で感受したのではないでしょうか。音声と身振りでダンサブルに語っていく様は、書籍となったものとは異なる説得性を帯びてゆきます。質疑応答も含め、休憩なしの二時間にわたる講義は、しかしまったく長く感じることのない、密度の高いものとなりました。事前に予想された以上に「エピクロスの空き地」にとって、重要な契機になることは間違いないでしょう。

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